駅前で工事をしていて横断歩道が通行止めになっていた。
現場の誘導員いわく車道の方まで迂回してくれ、と。
車が途切れるのを待っていると工事現場の偉い人がやってきて誘導の若者に言った。
「もっと臨機応変に対応しなきゃだめだよ」
そう言って道を塞いでいたパイプを外して通してくれた。
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あの誘導のバイトからすると言われたとおりにやっていたのに、あとから臨機応変にやれとか言われて腑に落ちないだろう。
このシーンでいちばん複雑な感情を持っているのはあのバイトだ。
つまりバイトがモヤモヤするきっかけになった通行人が僕なのだ。
通行人A。
つまり、モブキャラだ。
横断歩道を歩いているとき、『あ、いまおれモブキャラ!』と思ってなんだかわくわくした。
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以前も似たようなことがあった。
成城学園前でバスを待っていたら隣で解体しているビルから水が降ってきた。
ホコリを防ぐための水が道路に出てしまったのだろう。
「わ、水だ!いま水降ってきましたよね?!」とつい隣りにいた男性に言ってしまったのだが、反応が悪い。
「はあ」みたいな返事だった。
その人をよく見たら、車をぶつけて警察を待っているところだった。
つまり、車をぶつけてしまい途方に暮れていたら、通行人が「水降ってきましたよね?!」と言ってきたのだ。
それどころじゃねえよ。
パーフェクトにそれどころじゃない状況である。
たいへんなときに登場したのんきな通行人Aが僕だ。
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通行人として純粋に通行しているとき、わくわくするのはつまり「おれじゃなくてよかった」という感情の裏返しかもしれない。悪いけど。