近所の遊歩道に猫がいたので眺めていた。
そこに散歩中の夫婦がやってきた。その猫はよくそこにいるらしく、
「あら~、またいるの~。そこにいたの~」
と声をかけていた。
愛でる理由が「いる」ことだ。
存在していること、そこにいることだけで愛でられている。これ以下はない理由である。be動詞で褒められている。
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むかし居酒屋で誕生日の同行者がもらったケーキに「生まれてきてくれてありがとう」と書いてあった。これなら初対面でも褒められる。その褒め言葉の守備範囲の広さに膝を打った。
猫のように「いてくれてありがとう」でもいいのだが、そうすると皮肉めいてしまう。
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be動詞で褒められた猫は黙ってしばらく座り、歩いて去った。
猫が「いる」ではなくなったので知らない夫婦も去った。